消費税をどうするか―再分配と負担の視点から (岩波新書)

今や私たちは消費増税に対してどうするか、についてしか考えられなくなっている。しかし、そもそも消費税をどうするか、についてもっと考え直すべきだ。その意味で本書のタイトルは画期的であったのであり、他のレビュアーの低評に反して、全く適切である。これは民主党政権による増税の決断以前に書かれていたものの、今の消費増税が政治家の政策というより官界・財界の意向であった事は本書でも明白である。社会保障のためであるにせよ財政再建のためであるにせよ、とにかく税制を消費税化していきたい、と民意を反映しない日本国の中枢は考え続けてきたのであり、逆に言えばそれ以外の考え方ができない、それに凝り固まってきたと云えよう。世界的な経済学者のクルーグマンやスティグリッツが再分配をもっと重視せねばならないと云い、政権交代前の「民主党が唱えるように、一般会計と特別会計の全面的見直し・・・も、ある程度は考えておいて良いかもしれない」と示唆されていたにも関わらず、これは未だに打破されていない。消費増税が当たり前と考えている某キャスターや官僚、元官僚の方が当たり前で、ノーベル経済学受賞者や本来の民主党の方が妥当でなかったなどという事は全く言えない。現在の日本社会は中間層が形成されていく過程にある訳でもないし、安定的にそれが常態化した社会になったわけでもない。寧ろどちらかと云うとそれが崩れていく過程で、いわゆる格差拡大、貧困化の恐れが大いにある社会状態である。この場合、必要とされる税制は、消費税ではなく本書の副題にあるように所得の再分配、累進課税という税制の基本に還ったものであるはずであり、消費税は逆に減税する方向で民間刺激策の一つにする、それが健全な増収にすら繋がる、その逆転の発想こそが求められているものだと考えられよう。