星の降る砂丘で ハーレクイン・ロマンス

≪愛に戸惑う娘たち≫の７作目。ヒロインは８人の姉妹の中で１番美しく、１番華やかで、１番奔放で、１番スキャンダラスな、次女のベラです。父オスカーに「自分自身を見つめ直せ」と砂漠の瞑想キャンプに送り込まれたベラ。瞑想生活に耐えられなくなった彼女は、厩舎から美しいアラブの牝馬を拝借してキャンプを脱走するも行き倒れになってしまう。意識を取り戻したとき、ベラはアル-ラフィド首長国のシーク、ザフィークの腕の中にいた…。１作〜６作まで読んだとき、「バルフォア家の姉妹のどこがスキャンダラスなんだ？」と不思議で仕方ありませんでした。みんな真面目だし、ほとんどがバージンだし、確かにカット（六女）が悪ぶったり、アニー（四女）が未婚の母だったりはするけど、ヒーローたちに「あの悪名高いバルフォア姉妹の１人」と責められるほどのことをやらかしたとは思えない…。それが今回のお話で納得。数々のスキャンダルの大半は、ベラひとりの仕業。そして彼女が“悪女ベラ”になった理由と、彼女が自分は“悪女ベラ”ではなく“責任を負える人間”だと証明するために奮闘する姿がこの作品では描かれています。ヒーローのザフィークは、母親の違う弟妹や国に対して強い義務と責任を負い、周囲の人びとからはシークとして畏怖され、尊敬されています。しかし、自制心の強いザフィークも、ベラには出会いの瞬間から調子を崩されっぱなし。むこうみずで無鉄砲、相手が誰であろうと物怖じしないベラは、それがシークであってもおかまいなし。彼女はお粗末なジョークをとばし、屈託なく開けっぴろげな態度で、ときにザフィークに反抗し、挑戦し、彼の心をかき乱します。義務と責任に縛られ、そのことに密かな重圧を感じているザフィークは、そんなベラに強く惹かれ、２人は自然に恋におちていきます。しかし、ベラもザフィークもそれぞれの生い立ちから家族や結婚というものに関して複雑な感情を抱いており、それゆえに２人の恋はすんなりハッピーエンドとはいきません。ただの男と女として過ごした砂漠での生活が終わり、本当の自分自身と現実の生活に戻ったとき、２人はそれぞれが抱える問題に直面することになるのです…。この作品の魅力は、イコール、ベラの魅力です。エネルギッシュでバイタリティに富むベラは、どんどん周囲を巻き込んでさまざまな変化をもたらします。胡散臭げに、遠巻きに彼女を観察していた人びとも、気さくで思いやりのある彼女と接するうちに自然に彼女を受け入れ、彼女を愛するようになります。ベラの活躍と彼女が周囲にもたらす影響は痛快で小気味よく、読んでいてもわくわくして、本当に楽しい。ザフィークとの恋は最後までもつれますが、その分２人の気持ちの揺れがきちんと描かれていて、納得のいくラストになっています。爽快で読後感がよい作品。個人的にもシリーズ８作＋番外１作の中で、１番好きな作品です。ところで、この作品に欠かせない、すばらしい名脇役が牡馬バタルと牝馬のアミーラです。特に、気性の荒いバタルは実に魅力的なイイ男（？）で、彼の活躍する場面はこの作品の最高最大の見せ場となっています。ちなみに、彼がアミーラへの愛を実らせることができたかどうかは、シリーズ最終話『世界の果ての恋』のエピローグでわかりますよ。